Military financing

前 記  軍師の仕事は一言で申せば『軍を勝利に導くこと』である。だが、そのために為すべき事は多い。戦略の勘案はもちろん、軍の整備及び規律保持、将来展望と適材適所である人員配置、主への進言とその体調管理等諸々。上げ連ねれば枚挙に遑がないほどである。果ては、隊員に軍の一員としての自覚を促すための紋章や制服のデザインをも行わなければならないこともあろう。
 蛇足ながら最後のひとつは、自分のセンスと絵の腕前によほどの自信がない限りは外部に委託すべきであると考える。筆者の知るものとして、北の国境沿いにある都市同盟の小さな街で軍のシンボルに鷹を起用したところ、隊員達には最後まで雀だと信じ込まれていたという例があった。筆者もその街へ遠征に出た折、直接目にしたが、確かにあれは鷹というよりは雀かペンギンと呼んだ方がまだ近いシロモノであっただろう。趣味に水彩画を嗜んでいた軍師が、己の力量を知らずして筆を走らせた結果起こった実に悲劇的な事件である。

 さて、余談はこれくらいにして本題に入るとしよう。そうした数ある軍師の勤めのなかで、最も重要な位置を占めるのが軍費の取り扱いである。
 いかに優れた作戦を立案しようとも、軍費なくして行動を為すことは不可能。軍は人、物、金がそろって始めて実力を発揮するものだ。
 だが、優秀な人材を使おうとすればするほど雇用費は高くなり、より良い武器や防具を揃えるには多大なる出費を伴うこととなる。
 つまり、前者ふたつは、金さえあればある程度揃えることが可能であるのだ。
 以上のことから、軍費の運用がどれだけ重要なものであるかお解り頂けたことと思う。

 本書は、そうした軍を運営していく上で重要な地位を占める軍費に対する心得について記したものである。
 軍費の掻き集めに頭を抱えている同僚諸君よ。この本が君達にとっていくばくかの助けとなれたならこれ以上幸せなことはない。
 また、今後歴史の分かれ目に立つことになる未来の軍師達にとって、本書が少しでも彼等の悩みを軽くするものとなることを願って止まない。

 短くはあるが、以上をわたしシルババーグの挨拶とかえさせて頂く。
  

第一章 軍の収入に関する心得 1.どんなに少額であっても寄付には笑顔で頭を下げよ 「塵も積もれば山となる」の言葉があるとおり、どんなに小さな額であっても多くの村や町から集まればその金額は侮りがたいものとなる。
 頂き物に対して礼を言うのは世間一般の常識。そして相手方も礼を告げるのが地位の高い者――この場合、軍主であってはいけない。威厳が損なわれる怖れが生ずるためである――から感謝されれば、悪い気持ちはしないであろう。好印象を与えておけば、次の寄付に繋がることもある。
 相手は金蔓。頭は下げるだけならタダ!を心に刻み、田舎者である村民町民達にはせいぜい愛嬌を振りまいておくことをお奨めする。 2.隊員の身なりは清潔に。立ち振る舞いは徹底的に教え込め  軍としての評価は、上記の寄付に直接響いてくるものである。いかに、正義感に溢れた清廉潔白な軍であるかをアピールするために隊員の立ち振る舞いは常に紳士的であるよう心がけたい。金に余裕があるならば、派手な広報活動展開も可能となろうが、弱小貧乏な軍ともなればこうした小さな積み重ねが必要不可欠となる。やがては口コミで良い評判が伝わることを願い地道な活動を推進していこう。
 時には隊員が一般人のフリをして、自ら良い噂をばらまいて歩くという情報操作活動も有効である。 3.魔物からは搾り取れるだけ搾り取れ  人を相手に略奪行為を繰り返せば犯罪となる。喩え敵が相手であろうとも、あまりに心ない行為は見る者の心に不快感を招きかねない。また、軍とは関係のない山賊や海賊を装うこともいただけないだろう。なぜならば、どんな些細なことからそれが露見しないとも限らないからである。蟻の穴から堤も崩れる。良い噂より悪しき噂の方が格段に広まりやすいことを肝に銘じておこう。
 人から求めるのはあくまでも善意の寄付のみ。ならば、足りない分をどこで補えばいいのかと考えたときに救いの手立てとなってくれるのが魔物の存在である。
 人外のモノが相手であれば、いかほどに残虐非道な行為を働こうともさして問題とはならない。加えて、その魔物が人に徒為す存在であるならば、被害を被った者達から感謝の念さえ獲得できることもある。
 持っているアイテムや金品は没収し、皮は着物に加工。肉は食用とし、骨はアクセサリーや小物などの土産品として売り捌く。
 一片の無駄もなく活用できる魔物というのは、まさしく軍費の足しになるために生まれてきた生き物であるといえる。心静かに彼等の冥福を祈り、感謝の気持ちを忘れないようにしたい。
4.隊員は実家通いの者を選べ  城に住人が増えれば、それだけ衣食住に関する支出が増える。これを抑えるために、隊員はなるべく実家から通える者を選びたい。単純に考えるならば、戦場にて現地調達するのが一番である。但し、この方法では、優秀な人材を選び取ることは叶わず、また人品骨柄の良い者ばかりを集められるとも限らない。下手をすればそれでも必要人数が揃わないことさえあり得る。ある程度は必要経費と腹をくくって諦めるより他ないのだろう。様々な地方の者を少しずつ集めておけば、遠征の際、その地方に住む者に近隣の者を紹介させるなどという手段を講じることも出来る。併せて活用していきたい。
5.城に在住する者には内職をさせろ  軍の評判を保つためには、戦力とはならない避難民なども受け入れる必要が出て来るであろう。こういった者達にタダで飯を喰らわせるのは愚かの極みである。
 せめて自分の食費ぐらいは稼げるよう、さまざまな仕事の斡旋や、城の余った敷地内を活用し、耕作や酪農等の推奨政策を行うべきである。もちろん、稼いだ金の全ては軍費として召し上げるようにしておきたい。
  

第二章 支出に関する心得 1.経費削減を徹底せよ  見た目を整えるのは、謁見の間や客を招き入れる応接だけで充分である。あとはリサイクル活用、中古品歓迎、古雑誌古新聞に到るまで無駄なく流用していきたい。質実剛健、質素倹約を合い言葉に貧しい日々を乗り切るのだ。隊員達には精神修業の一環とでも言って誤魔化しておけばよい。 2.必要経費はなるべく認めるな  上記に付随するものとして、戦の前の偵察や情報収集作業、作戦の遂行に関わる費用の精算等がある。これをいかに個人負担させられるかは軍師の手腕に掛かっている。なるべく安く上げるなら、偵察に出す人物は軍主に特別な好意を抱いている者か、あるいは騎士道と自己犠牲の精神に溢れた人物を選び、口先三寸で丸め込むようにしたい。
 この時、注意したいのが前者の好意の矛先である。これはいかに便利そうに思えても軍師自身であってはならない。下手な借りを作れば、あとでどんな波及効果が現れるかやもしれないためである。その点、相手が何も知らず自覚のない軍主あたりであれば、その者も強いて恩を着せることはできなくなるであろう。
 後ほど、軍主にさりげなくその者に微笑みの一つでも投げ掛けてやるよう進言しておけば、感謝されこそすれ怨恨を持たれることはまずない。
 万が一、その者と軍主の間に何事か起こった場合でも、『対岸の火事』と素知らぬ振りで眺めていればよい。喩え主といえども他人の恋愛事情に口を挟むのは野暮であり、また軍師の仕事ではないのだから。 3.金の使い所を考えろ  出し惜しみするばかりでは、いざというときに軍の行動に影響が出てしまう怖れがある。使うべき所はきちんと使い、出し渋るなどということがないよう心掛けよ。
 特に軍師の部屋に常設するお茶の葉には気を遣うようにしたい。
 安物を使うと頭の働きが鈍る怖れがある。また、同様の理由から軍師の部屋のソファー、机、ベッドをはじめとする調度品も極力心地が良いと感じるものを設えておきたい。
 そのために多少軍主の部屋に影響が出ようとも心を痛めるにはあたらない。軍主は武人肌の者が多く、頑丈に出来ているのだ。多少隙間風が入り込んだところで繊細にできている軍師とは異なり、風邪を曳くこともあるまい。主を甘やかすばかりが軍師の仕事ではないことをここに明記しておく。
(中 略)
  

後 記  簡単ではあるがここに軍費の有用法を列記した。
 もっと詳しい内容を知りたい方は別売りの、「正しい軍費の活用法・実践編――あの時、シルババーグはこうした!――」をお求め頂きたい。
 尚、もし軍費の横領という野望を抱いている方がおられるなら「正しい軍費の活用法・横領編――二重帳簿の記載はこうやってする――」をご参照あれ。こちらは通信販売のみとなっているのでご注文の際はお間違えのないよう留意いただきたい。
2002/01/16 UP
ファイルの整理をしていたら、昔の駄文が出てきたのでついでにUP。
マッシュの父親が書いた兵法書という設定です。
至極頭の悪い内容ですね(汗)
こんな奴に作戦を立てられたらすぐに戦に負けてしまうかと。