第 弐 拾 話  【 静 】
 
 
 


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 やり切れなさに吐息が零れた。
 虚しさに涙が溢れそうだった。

 《黄龍の器》だの《次代の担い手》だのと騒がれている自分は結局の所、己の担任教師ひとり救えぬ軟弱者でしかなく。日に日に強大になってくる《龍脈の力》を持てあまし、《宿星の運命》とやらに振り回されて。一人で始末を付けることさえ出来ずに友人達に迷惑を掛けている。
 仲間達の元へと急ぎながら、龍麻は哀しみと情けなさに今すぐ消えてしまいたいとさえ思っていた。
 けれど、こんな自分に向かって京一は言うのだ。

 よく頑張ったな、と。もう独りにはしないから――と。
 龍麻を迎えに来てくれたのだろうその足で。心配して駆けてきてくれたのだろう微かに乱れたその声で。

 影に覆われた龍麻の心を、明るい陽射しで照らしてくれる。
「京一・・・」
(だめだな、俺。すぐに弱気になったりして・・・)
 喪った過去を取り戻すことも、起こってしまった出来事を取り消すことも出来ないけれど。まだ、自分には護るべきモノがある。大切にしたい仲間がいる。

 歩んで行きたい未来がある。

(京一、ごめん・・・一度だけだから)
 龍麻は胸の裡で謝罪すると、すぐ目の前にある相棒に向かって少しだけ身を乗り出した。
 二度と振り返らないことを誓い、触れた温もりを戒めとする。
 京一の目が大きく見開かれた。
「ひ、ひーちゃん・・・」
「行くぞ。皆待ってるんだろう?」
 卑怯と知りつつ、呆然としている青年を残してさっさと歩き出す。
「・・・ったく、どうしてくれんだよ。死んでもいいなんて思っちまったじゃねェか」
 背後から近づいてきた気配に耳元で囁かれ、火照る頬がさらに熱くなった。軽口で応じてくれる青年の優しさが嬉しい。恐らく彼は龍麻の想いになどとっくに気付いていたに違いない。
「―――あれで気が済むなんて、随分と命を安売りするんだな」
(お前なら俺なんかよりもっと綺麗で可愛いお姉ちゃん達が選り取り見取りで待ってるだろうに)

 大丈夫、自分はちゃんと送りだしてあげられる。
 全ての闘いに終止符を打ち、龍命の塔を再び眠りにつかせて。
 平和になった世の中で仲間達が己の道を歩んでいく背中を笑顔で見送ろう。


 待ち合わせ場所は、寛永寺に隣接する幼稚園の庭だった。仲間達は龍麻の顔を見るとほっとしたように微笑んでくれる。
「アニキー、遅かったやないか。わい待ちくたびれたで!」
「悪かったな弦月」
 子犬のようにじゃれついてくる劉の頭を撫でながら、青年は皆の顔を見渡した。
 《力》を持つ者達の全てがここに集っているわけではない。舞園や高見沢のように仕事を持っている者もいれば、御門や村雨、如月といった他の役目を背負っている者達もいる。また、小さなマリィには家で待機するよう美里に説得に当たらせた。
「これで、全員揃ったな」
 醍醐の声に頷くのは、龍麻を含めて合計10名。真神の5人に加え、先程から龍麻にひっついている劉弦月、婀娜な笑みで髪を掻き上げる藤咲亜里沙、強い相手との対戦に胸を躍らせている紫暮兵庫、己の道を模索し剣の道を極めんと京一に師事する霧島諸羽、そして、村雨と御門の名代としてきた式神、芙蓉。
 ひとりひとりと目を合わせ、龍麻は力強く頷いた。

 この闘いの果てに新たな希望の光が待っていることを信じて。
 
 
 






《 緋勇龍麻君と豪華ゲストによる希望的次回予告 》
 
【今回のゲスト:壬生 紅葉】

紅葉 : 「龍麻、くれぐれも気をつけて」
(これ以上、蓬莱寺にセクハラを働かれては困るからね)
龍麻 : 「わざわざ見送りに来てくれたのか?仕事あるって言っていたのに・・・」
紅葉 : 「心配だったからね。僕も一緒にいければよかったんだけど」
(予感的中だったよ。蓬莱寺の奴、龍麻が弱っているところにつけこんで・・・)
龍麻 : 「ありがとう。でも、紅葉達が後方で支援してくれていると思うから安心して闘えるんだ」
紅葉 : 「君の期待は裏切らない。僕に出来る精一杯のことをやらせてもらうよ」
(もう少しの辛抱だ。龍麻のために、この機に乗じ蓬莱寺を闇に葬り去ってやる)
 
 


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