第壱拾話 深緋

 視界を塞ぐ冷たき雨が。
 体温を奪い、命を洗い流そうとしている。
 冷えていく指先。零れ落ちていく緋の色。

 どうして、こんなことになったのか。
「アニキ。頼む、目をあけてくれ――」



 意識の無い躰を、桜ヶ丘病院に運び入れた。
 カラカラと軽い音を立てて運ばれる、簡素なベッド。
 消毒液の匂いの染み付いた白いシーツ。
 酸素マスクから伸びる、飴色のチューブ。
 露になった額。難く閉ざされた瞳。
 息をしているのかさえ、定かではない唇。
 整いすぎた容貌は、精巧な蝋人形にも似て。
 悪夢なら早く覚めて欲しいと固く祈る。

劉弦月が生まれたのは、中国は福建省にある客家のひとつ
そこは英雄の眠る場所。強大な魔の封印されし地
かの人の眠りを護り、封印を監視すること
もしもの時は、身をもって魔を食い止めること
それが、英雄に敬意を表し、客家が自らに任じた決意
弦月が引き継ぐべき使命だった

 声を発することにすら怯え、慄然とする美里。
 親友を強く抱き締める、小蒔。
「くっそぉぉぉぉッ。こんな、こんなことになるなんて!」
 やりきれなさを、病院の壁にぶつける醍醐。
「わいがついていながら……アニキぃ」
 弦月は滲む涙を堪えるすべさえ持たず。
 誰もが慚愧の念に苦悶する中。
 彼を相棒と呼ぶ青年だけが沈黙を守り、ただ瞑目していた。

繰り返し聞かされた物語
禁足の裏山にある、入り口を塞がれた洞窟
争いに巻きこまれて逝った者達の名を記した石碑
在りし日の英雄を偲ばせる数々の遺物
それらを間近にしてなお、伝承の人はどこか架空めいていて
むしろ弦月は、残された赤子の存在に心惹かれていた
英雄の忘れ形見たる幼子は
いまこの時点にも日本のどこかで生きている
孤独を感じてはいないだろうか
一人の夜に枕を濡らしてはいないだろうか
もし、自分が傍にいたなら、決して寂しい思いなどさせはしないのに

昼は野原を駈け巡り、夜は共に毛布にくるまって
鶏の声に朝の光を感じ、朱く染まった夕日を見よう

きっと、自分達は仲良くなれる。ここは『彼』の第二の故郷
英雄の名を一字もらい受けた弦月は
まだ見ぬ『彼』を兄とも慕っていた

 ピンクの看護服をきた高見沢が廊下を駆けてくる。
「たか子先生とわたしだけじゃ手が足りないの~。お願~い。手伝って~」
 いつもは明るい少女の眼の縁が真っ赤に染まっていた。
 霊的施術の第一人者が、もてあますほどの傷。
 袈裟懸けに、肩口から心臓の真上を通って振り下ろされた兇刃。
「わたしにできることなら。高見沢さん、龍麻のところへ連れて行って」
 青ざめた美里は、震える膝で健気にも立ち上がった。
「葵……」
「大丈夫よ小蒔。きっと龍麻を助けて見せるわ」
 悲愴な顔に決意を漲らせ、少女は親友を振り返る。
 癒しと慈愛の《力》を持つ彼女は。
 彼を救う手だてとなれる。
 成す術もなく見守るだけの弦月とは違って。

『彼』は約束された人
大いなる《氣》の持ち主たる父を持ち
菩薩の加護を瞳に受ける母との間に生まれし子供
四神の要、央獣たる黄龍の《力》をその身に宿すべく具現せし者
新たなる世を創り出す時代の覇者となるべき――《黄龍の器》
『彼』は英雄である父より、なお重き宿命を背負わされている

「あんた、なにをそんなに落ち着いとるんや!!」
 緊張に耐え切れなくなり、弦月は鬱憤をぶちまけた。
 これはただの八つ当たりだと。わかっているのに、止めることができなかった。
「アニキが、心配やないんか!?」
「劉よせ……っ!!」
 引き止める腕を振り解いて、京一の胸倉を掴む。
「あんた、アニキの相棒を名乗っとるくせに、なんで……ッ!」
「……俺にどうしろってんだ?」
 新宿中央公園以来、初めて声が発せられた。
 低い恫喝に、初めて彼が恐ろしく腹を立てていることに気づく。
「泣き叫んでなんとかなるものなら、いくらでもやってやる」
 神にでも悪魔にでも祈る。どんな犠牲だって払ってやる。
「けどよ、そんなの意味ねェだろ」
 抑揚を欠いた声色。身の裡を巣喰う激情に、表情さえ奪われている青年に向かい。
「気持ちの問題ってのがあるやろ!?」
 収まりきらずに怒鳴り散らした。
「気持ちか……」
 京一の口角が嫌な感じにつり上がる。
「知ってるか?ひーちゃん……龍麻はな、俺達のせいで死にかけてるんだぜ」
 瞳の奥で青白い炎となって渦巻く、慟哭と悔恨。
「そんなん……」
「わかってるっていえるのかよ。あいつはな、俺達を庇ったんだ……っ」
 吐き出される言葉は苦渋に満ちていた。

どんな時代が来るだろう。何を見せてくれるだろう
弦月は『彼』の手助けとなれるだろうか
大きくなったらきっと会いに行く
まだ見ぬ地、日本はどんな所だろうか
『彼』はどんな人なんだろう

  

 物陰に隠れた弦月は、息を潜め目的の方向をそっと窺った。
(なんや、わい、えらい暗いことやっとんなあ)
 目線の先には、偏屈……もとい、意志の固そうな老人の姿がある。
 楢崎道心。もとは高野山の修行僧でありながら世捨て人となり、新宿中央公園を拠点としてその日暮らしをしているという、変わった経歴の持ち主だ。
 普段は自ら張り巡らせた結界内に閉じこもっているので、他者と交流を持つことはほとんどない。
 道心は弦月の日本における保護者であった。
 住所不定である彼がどうやって身元引受人となり得たのか、正直なところ弦月は知らない。聞いても誤魔化されてしまうとこからして、公言できない裏技でも使っているのだろう。
 もっとも、『もと英雄と一緒に戦った仲間』というツテだけを頼りに道心の元へ転がり込んだ弦月に、とやかく言う資格はない。結界内は存外、居心地もよく――もとより雨露さえ凌げれば不満はないが――弦月は道心に多大なる恩を感じていた。

 その道心は今、数名の若者に向かって何事かを話している。
 道心と誼を通じる新井龍山に紹介されたといって、訪ねてきた真神の学生達である。
 彼等の中心にいる漆黒の髪の青年を、じっと目で追う。彼こそが、弦月が身を隠す理由であり、同時に目が離せない理由でもあった。
 18年前、人知れぬ戦いに身を投じ散っていった男、緋勇弦麻。弦月の生家が英雄と崇め奉るかの人の息子が、すぐ近くにいる。
(皮肉なもんやな。あれほど会いたかった人が目の前におるのに、堂々と名乗り出ることもできへんなんて)
 馨しくさえあるほどに妙なる《氣》。汚濁に塗れた都会にあってさえ損なわれることのない光輝に、弦月は眼を細めた。
(つっても、もう会ってしもうとるんやけど。言葉も交わしてもうたしな……)
 龍山に話しを聞いたら、我慢が出来なくなった。遠くから眺めるつもりで、つい、ふらふらと赴き、ついでについ、ふらふらと彼等の戦いに乱入してしまったのだ。
 今更隠れる意味などまったくないのだが、弦月にだって意地がある。
 会いたい。けれど、会えない人。
 ……会ってはいけない人。

 邪念に捕らわれている弦月が、触れることなど適わない人なのだから。

「……父親とよく似ていやがる」
 憎まれ口を利く道心の目尻が僅かに下がる。
 俄かには信じがたいであろう、道心の綴る叙事詩に龍麻は真摯な態度で耳を傾けていた。
 父親のこと、母親のこと。中国の奥地に封印された強大な魔性のこと。
 ……『彼』自身のこと。
「そう……だからなのね」
 美里が自分の躰を抱き締めた。
「龍麻に感じた懐かしさや親しみは、私が龍麻の傍らに立つべき星の元に生まれていたからだったのね……」
 気が遠くなるほど長い年月を経て再び出逢った人。色褪せずに残る想いは、古い縁に依るものだと思っていたのだけれど。
 それだけではなかったのだ。
 《龍の目》と龍麻は彼女を呼んだ。
 美里の《力》は、黄龍に帰するべきもの。大いなる龍王の掌の内にあって、始めて正しくあるべき姿となる。
 《菩薩眼》が女性体であるのは、《器》の母胎となる役割を有しているため。また、覇王であるところの黄龍を補佐すべき立場にいる彼女が、覇道を示す《力》を持つのは自然の成り行きであるといえた。
 美里と龍麻は出逢うべくして、出逢ったのだ。
 少女の全身から、《氣》が立ち上る。これまでにない強い波長に、小蒔と醍醐が眉を跳ね上げた。
「葵!?」
「美里大丈夫か?」
「心配いらねえよ。そのお嬢ちゃんは《菩薩眼》なんだろうが。《黄龍の器》と共鳴しているだけだ」
 道心の科白に、今度は京一がぎょっとする。弦月もどきりとして龍麻に注意を向けた。
 長い漆黒の前髪から覗く瞳が、夕日を吸収したかのような、黄金色に輝いている。密やかに溢れだす《器》を満たす《氣》。弦月はごしごしと眼をこすった。
(見間違い……とちゃうよな?)
 その証拠に、京一が硬い表情で相棒の肩に手を置く。
「ひーちゃん?」
「え……?あ……」
 ピクリと肩を揺らした龍麻が、俯き加減だった顔を上げた。京一を見つめ返した瞳はいつもどおりの、新月の闇より深き色。
 龍麻は京一と二言三言交わすと、美里の様子を覗き込んだ。
 美里の《氣》は、龍麻の瞳の色が戻るとともに静まっている。
「ごめん、美里大丈夫か?」
「龍麻のせいではないわ。私なら大丈夫よ」
 にこりと美里が微笑んだ。
「《黄龍の器》と《菩薩眼》ともに自覚が出たことで、より存在が近くなったんだろうさ。大騒ぎする必要はねェよ」
 どうやら彼等は龍麻の変化には気づかなかったらしい。
(わいと京一はんだけ気ィついたってことか?しっかし、アニキの《氣》が、あない不安定になっとるなんて……)
 最初に出会ったときは、尾根の連なる山脈のごとく揺ぎない印象を受けたのに。ほんの少し気を緩めただけで他者に影響を及ぼしてしまうのは、あまり芳しい状況とはいえない。
(龍脈が活性化しとる影響が出とんのか?アニキ、《黄龍の器》やさかいなあ。大丈夫やろか)
 《黄龍の器》とは龍脈の大いなる《力》を受け止めるべくして生まれた者。
 《器》と《力》が揃って始めて、《黄龍》は完全なものとなる。新たなる時代を築く指導者となれる。
 だが、資質があるにしても、労せずして制御するというわけにはいかないのかもしれない。
 外部から補助できる者がいればいいのだが、弦月の知る限り、彼等の仲間内に適任者は見当たらなかった。
 必要なのは、《氣》の乱れや歪みを正し律することの出来る《力》。治癒能力のように躰に働きかけるのではなく、《氣》に直接作用させる《力》だ。
(わいの活剄なら、都合がいいんやけど……いや、あかん、あかん)
 ぷるぷると弦月は首を振る。彼らと仲良しごっこしている暇など自分にはない。
 弦月が求めるのはただひとり。
「柳生宗崇……」
 耳に届いた名前に心臓がぎゅっと収縮した。
「それが、おめえが生まれた年に弦麻が封じた魔性――凶星の者の名前だ。奴は《黄龍の器》を人工的に創り出し、龍脈の《力》を得ようと画策した。そして、それは半ば成功している」
「成功してる?ひーちゃんの他にも、その、《黄龍の器》ってのがいるってことか?」
「そうだ。仮に緋勇を《陽の器》とすると、外法によって生まれたそいつは《陰の器》だ。ひとつの時代にひとりしか生まれねえはずの《黄龍の器》が、ふたりもいるために、龍脈に乱れが生じている。本来なら、緋勇と《菩薩眼》の嬢ちゃんが、新しい時代の導き手となるはずだったんだがよぉ」
「今は違うということですか?」
 醍醐が複雑な表情で尋ねる。話しが大きすぎて、どうにも実感がわかないのだ。
「わからねえ。そうかもしれねえし、そうじゃねえかもしれねえ。星の巡りがおかしくなっちまったからな。これじゃいかな優秀な予見者といえども先を見通せねえよ」
「でもサ、柳生ってのは、もう封印されちゃってるんでしょ。だったら悲観することないんだよね」
 小蒔が淡い期待を抱いて言う。道心はあっさりとそれを打ち砕いた。
「封印されたままだったらな」
「まさか……」
 醍醐が掠れた声で呟く。
「そのまさかさ。封印は解けちまったよ。柳生を食い止めようとした客家は、その時にほぼ全滅させられちまったそうだ」
「全滅……皆殺しか……」
 京一が唇を噛み締めた。
「なんてひどいことを……」
 美里が震える両手を組み合わせる。
(その客家の生き残りがわいや……)
 弦月は身を寄せる木の幹に爪を立てた。

 さながら地獄絵図のようだった。
 阿鼻叫喚の声。断末魔の叫び。
 救いを求める声は途切れ、飛沫を上げて肉塊が転がる。
 緋色に混じった黄色い脂肪は地表に薄い膜を張った。
 血の宴に酔いしれる悪鬼の紅い髪。
 墨汁を溶かした虚空に滲む紅い月。

 無念のうちに死んでいった一族の、怨嗟の声が聞こえる。
 弦月が日本に渡ってきたのは、一族の仇を討つため。
 あの悪鬼だけは捨て置くわけにはいかなかった。

「そんなにまでして、柳生は何をしたいんだろう」
 小蒔の声に我に返る。爪の間に、木の皮の欠片が入り込んでしまっていた。
 上着で手の平を拭い、強ばっていた躰をゆっくりと解きほぐす。
 あいかわらずぶっきらぼうな道心の声が、再び耳に戻ってきた。
「さあな。それを知っていたのは弦麻だけだ。たぶんこれからも誰にもわからねーだろうよ」
 だがよ、と道心は続ける。
「気をつけろよ緋勇。奴は《陰の器》を完全なものにしようと目論んでる。それにはおめえが邪魔になるからな」
 偽者が本物を凌駕することはないが、代用品となることは可能だ。本物さえいなくなればいいのだから。
 龍麻は神妙に頷いた。
 最近、巷で騒がれた高校生の神隠し事件は、被害者が全員今年に入ってからの転校生だった。これは、ある人物の始末を依頼された術者が、標的の素性をよく知らぬまま手当たり次第に狩ったために起こった悲劇である。術者の目的が龍麻にあったことは御門と村雨の協力で調べがついていた。いなくなった高校生達は、巻き添えを喰らったに過ぎないのだ。
 前後して起きた拳武館の事件は、依頼人の名が『柳生』であることが壬生の口から判明している。
 凶星は既に動き始めている。悪意はもうそこまで忍び寄ってきていた。

(アニキには指一本触れさせん!)
 弦月は鼻息を荒くした。
(見ててや。わいはきっと奴を倒す!一族の恨みを晴らしてみせるで)
 それは、龍麻を護ることにも繋がるから。

 そうして、一念奮起、気合を入れまくっていた最中に敵が湧き出てきたりしたものだから、つい……そう、ついまたしゃしゃり出てしてしまった。
 後悔先に立たず。しまったと思ったときには、道心にしっかり首根っこを抑えられ、逃げることが叶わなくなっていた。
 妖達の屍が累々と横たわるのを脇目に、弦月は仕方なく素性を明かす。
 龍麻がどんな顔でそれを聴くのか、多少の興味と後ろめたさが綯い交ぜになっていた。
「わいは、復讐者や。個人的な恨みだけで動いとるんや。こんなわいがアニキの傍にいるのは相応しくない。やっぱりわいにはひとりがお似合いや――」
「一緒に戦って悪いってことはないぜ」
 な、ひーちゃん、と京一が龍麻に答えを振る。
「そうだね、理由なんて人それぞれだ。でも、目指す場所が同じなら、手を取り合うことができるんじゃないかな」
「しかし、わいは……っ」
「劉が味方になってくれたら心強いしね」
 殺し文句に、劉はよろめいた。いかん、わいは孤高を貫くんや。他人を巻き込むことはできん。
「……わい、迷惑になってへんか?」
 流されたらあかん、流されたら……。
 心で念じつつも、言動は急流に運ばれていってしまっている。
「もちろん。俺達には劉の《力》が必要だし、劉の力にもなりたいと思ってるよ」
 極め付きの微笑み。
 ……夢にまで見た人に請われて拒める人間がいるだろうか。
(あかんな、やっぱわいこの人にはかなわんわ)
 劉は抵抗を諦めた。感情のままに素直な気持ちを口に乗せる。
「アニキィ~。わい、感動や。ほんま嬉しいわ!」
 ずっと、ずっと焦がれていた人。誰よりも近しく感じていた人。
(弦麻はん。貴方の息子は想像以上やった)
 強靱な肉体と、柔軟な精神と。人の気を逸らさぬカリスマ性は、きっとかの英雄より受け継がれたもの。
 遥か異国の地に眠る、英雄に、一族の皆に。
 大きな声で教えてあげたかった。
 嬉し泣きに霞む視界を誤魔化すために、見上げた空に紅い月が浮かんでいる。
(へんやな。こっから月なんか見えたか?)
 道心の結界は、白濁した淡い霧に包まれていたはずだ。敵に破られた部分の修復もすでに済んでいる。
 月なぞ望めるはず無いのに。

 何故、と考える暇はなかった。

 戦闘が終わったことで、気の緩んでいたところをつかれた。
 いつかと同じ、紅い色。
 顔を上げた龍麻が振り向きざまに。
 禍々しい輝きが、その肩に吸い込まれていった。

 重力に引かれた躰に向かって手を伸ばす京一。
 驚愕に目を見開く小蒔。
 茫然としている醍醐。
 立ち竦む美里。
 すべてがスローモーションのように流れた。

 悪夢の再来。

 京一の腕に縋りついた龍麻は微かに唇を震わせ、ぱさりと腕を落とした。
 白い指先が、びしゃりと泥水に汚れる。

 鮮やかすぎる真紅。
「ア……アニ、キ?アニキッーーっ!!」
 絶叫が深い霧に飲み込まれた。

これは罰なのだろうか
憎悪に狂った自分が、『彼』に近づいたことへの?
失いかけて始めて気づく、己の心
『彼』は、なにより一番大切な人
虚栄心も、憎悪も、怨嗟も、怨念も
吹き飛んでしまうほど、自分の心は『彼』で占められている

復讐なんて、遂げられなくてもいい
必要ならば、一族の恨みも忘れる
剣を捨てることさへ躊躇わないから
だから、神様――
どうか、自分達から『彼』を奪わないで下さい

2001/06/10 UP
二カ国語放送でお送りしています(笑)
コレ某所に投稿したとき、右寄せを失敗したんですよね(涙)
ふっ、過ぎたことですけど(←反省が足りない)
それにしてもレイアウトがいまいちです。そのうち考え直そうかな……。

【次号予告(偽)――本編が暗かった分長めにしちゃったぞスペシャル(爆)――】

柳生に魂を異世界へ送られてしまった龍麻。果たして彼は無事に帰ってこられるのか?
京一:「(あたりをきょろきょろ見回し……)だ、誰もいないよな……」
如月:「誰かいたらどうだというんだ?」
京一:「き、如月……いつからそこにッ」
村雨:「あんたが、ベッドで寝てる先生に覆い被さろうとしていたところからだ」
京一:「うッ、これはだな、俺がひーちゃんに目覚めてもらうために練りに練った作戦で……」
如月:「姫君の眠りは王子のキスで目覚める、なんて言い出したりはしないだろうね?」
京一:「な、なんでわかったんだ……」
村雨:「図星か。ま、あんたの考えることはそのくらいが関の山だろうさ」
京一:「なんだとォ……って、何でお前ひーちゃんの頬に手なんてかけてるんだよ」
村雨:「『王子のキス』なんだろ?だったら俺でもいいじゃねえか」
如月:「村雨、君の素行は王子にあるまじき悪辣さだ。ここはひとつ僕が……」
京一:「ふざけるなッ!亀野郎!!ひーちゃんの王子は俺だッ!!」
村雨:「あんたの場合は、品性と知性に欠けてるよな」
京一:「そんなもん必要ねェ!俺にはひーちゃんに対する溢れる【愛】があるッ!!」
如月:「愛で生活は買えないよ蓬莱寺君。現代の王子に求められているのは甲斐性だ」
京一:「ぐっ……」
村雨:「なら、俺が一番ありそうじゃねぇか」
如月:「何を言ってるんだ!僕は土地付き家持ちリストラ知らずと、3拍子そろってるんだぞ」
村雨:「へっ、その気になりゃ、一財産作ることぐらいわけねぇさ」
如月:「だったら作ってからあらためて言うんだね。寝言は寝てから言い賜え」
壬生:「待ってください。如月さん」
一瞬即発の場面に絶妙のタイミングで登場する壬生紅葉。その腕には、麗々しい白いドレスがかけられている。
京一:「ちッ、また余計なのが……」
壬生:「その闘いには僕も後でもちろん参加しますが、まずはこれを」
如月:「ウェディングドレス?随分と立派なものだがどうしたんだい?」
壬生:「龍麻が倒れたと聞いて、夜なべして縫ったんですよ」
さすがは手芸部!一晩で完成させたその力こそ【愛】と呼ぶべきモノなのか!?
村雨:「なるほど、着せるならいまがチャンスだな」
如月:「正気なら、絶対に袖を通さないだろう……」
京一:「ウェディングドレスを着たひーちゃん……」
目覚めさせることは後でも出来る。けれど、コレを着せるなら眠っている今しかない!共通の妄想を巡らせた者達の間に、かつてないほど親密な空気が流れた。
美しい友情にがっちりと手を取り合う男達。だが、キミタチは大事なことを忘れているぞ。
小蒔:「ねえ、葵。ひーちゃん助けなくていいの?」
美里:「もう少し後よ。小蒔だって、龍麻のウェディングドレス姿見たいでしょう?」
小蒔:「もちろんだよ!!ひーちゃん、きっとすごく似合うだろうな(うっとり)」
美里:「しっ、ダメよ小蒔。そんなに大声で喋っては。気づかれてしまうわ」
小蒔:「あ、そうだよねゴメンッ」
美里:「うふふ、あの人達の始末はそれからよ。龍麻、貴方の貞操は私が護るわ」
背後で不気味……じゃなかった、慈愛の笑みを浮かべる菩薩様。男達の運命や如何に!?