番 外 編 【 陽 火 】
 
 
 


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「ひーちゃん。花火しようぜ」
「京一?何をいきなり・・・」
「さっきコンビニで見つけて、つい買っちまったんだけどよ。―――ひーちゃん、忙しかったか?」
「そういうわけじゃないけど・・・、今から?」
「決まってんじゃねェか。早く行こうぜ」
「お前、少しは近所迷惑考えろよ。今何時だと思ってるんだ?」
「あー・・・。忘れてたわ。そういやそうだな」
「どうせ打ち上げとかロケットとか、派手なのばかり買ったんだろう?」
「花火っていや、やっぱ打ち上げだろ?つってもコンビニに売ってんのなんて、たいしたことねェけどよ」
「―――京一らしいよな」
「何笑ってんだよ。・・・悪かったな、お祭り好きで」
「別にそういう意味じゃなくて。一応褒めたつもりだったんだけど」
「どの辺がだよ?」
「何ていうか・・・、潔いとか、迷いがないとか。そんな感じがあるだろう?」
「・・・ひーちゃん、何か悩みごとがあんのか?」
「―――秘密」
「ひーちゃーん・・・。相棒に向かって、そりゃちょっと冷てェんじゃねェか?」
「冗談だって。変に気を回すなよ。単なるイメージの問題なんだから」
「ま、何もねェんだったら、別にいいんだけどよ」
「だから何もないって。―――それより京一。本当に打ち上げ花火しか買ってないのか?」
「いや、一応小せェのもひととおり買ったぜ。ネズミ花火とか、線香花火とか」
「ああ、ネズミ花火はちょっと無理だけど、線香花火なら付き合ってもいいよ。ベランダでできるし」
「・・・何か辛気臭くねェか?」
「嫌ならいいよ。折角だから付き合おうかと思ったけど」
「あッ、い、今のナシなッ!線香花火最高ッ!!」
「調子のいい奴だな・・・」
「細かいコトにこだわんなよ。早いとこやろうぜ」

「あッ、もう落ちやがった」
「―――京一は芸者遊びには向いてないな。・・・まあ、あれは逆さだけど」
「芸者遊びィ!?・・・どっからそんな話がでてくんだよ」
「あれ、知らないのか?線香花火の由来」
「線香みてェに細いから、じゃねェのか?」
「間違いじゃないけどね。―――昔、芸者さんを呼ぶ時には、時計代わりに線香を使ったんだ。線香が燃え尽きるまでが、一緒にいられる時間ってわけ」
「ああ、それで代金を線香代って言うのか。相手は生きてるのに、変だとは思ってたんだよな」
「・・・もしかして、御仏前みたいな意味で取ってたのか?」
「馬鹿で悪かったな。―――で?それで何で線香花火なんだよ」
「・・・夏にね、舟遊びってあるだろう?その時に線香代わりに使ったのがこれだよ。煙管で火をつけて、こう・・・逆さまに立てるんだ」
「ちょっと待て。線香ならまだしも、花火だとあっという間に燃えちまうんじゃねェのか?」
「そうかもしれないし、昔の花火はもっと長持ちしたのかもしれないな。俺も流石にそこまでは知らないけど」
「これが燃え尽きるまでってのは辛ェよなあ・・・」
「そう思うなら、次はもっと慎重に持ってろよ。さっきは風情どころじゃなかっただろう」
「風情ねェ・・・。確かに『日本の夏!』って感じだけどよ、やっぱ淋しくねェか?」
「俺は好きだけどね。結構華やかだと思うし。―――いいか、そのままじっと持ってろよ」
「え?・・・うわッ!?」
「あ、こら。・・・勿体ないな。じっとしてろって言ったじゃないか」
「だってひーちゃんが急に手なんか・・・」
「―――何?」
「あ、な、何でもねェよッ。悪かったな、今度はちゃんと持ってっから」
「いいよ。これで最後だから俺が持ってる。お前に持たせると花火が無駄になるだけからな。ちゃんと見てろよ」
「・・・・・・はい」
「ほら。最初に少し大きく光るだろ。これが牡丹。それから、チリチリ開いてる火花が松葉」
「へェ。言われてみりゃ、そんな感じだな」
「だろう?・・・で、最後にこう・・・、細い火花が出てる、これが散り菊。―――どうだ?線香花火も捨てたものじゃないだろう?」
「―――綺麗だな」
「京一?・・・花火、もう消えてるぞ?」
「い、いや、あの、えっとだな・・・。―――月!・・・そう。月が綺麗だぜ、ひーちゃん」
「・・・ああ、本当だ。見事な月だな。気がつかなかった」
「月を肴に一杯、ってトコだが・・・」
「線香花火が燃え尽きたから、今日はもう帰れよ」
「あ、やっぱし?」
「―――と思ったけど、今日はそのロウソクが燃え尽きるまでにするか。・・・ちょっと待ってろ。すぐ支度するから」
「ヘヘッ、さすがひーちゃん。話がわかるぜ」
「花火の礼だ」
「―――なあ、ひーちゃん。・・・また、二人で花火しような。線香花火」
「何だ、気に入ったのか?文句言ってたくせに」
「そりゃァ言ったけどよ!・・・いいじゃねェか。ひーちゃんだって、好きって言ってただろ?」
「―――好きだよ」
「・・・・・・え?」
「だから好きだ、って。・・・京一はどうなんだ?」
「お、俺も好きだよ、ひーちゃん。・・・物凄ェ、好きだ」
「そうか。だったら次からは、今日みたいに無駄にするなよ?」
「・・・・・・」
「京一?寝てるのか?」
「―――どわッ!?」
「だ、大丈夫か?・・・それにしても、もう酔ったのか?急に尻餅ついたりして」
「・・・あんまり綺麗だから、見蕩れちまったんだよ」
「確かに綺麗な月だけど、そんなものかな」
「そんなものなんだよッ。・・・って、ああ―――ロウソク!今ので倒れて消えちまったじゃねェか!・・・ってことで、今日はもう帰るわ、俺」
「別にさっきのは言ってみただけだから、そんなに気にしなくても・・・」
「いいやッ!俺は約束を守る男だからなッ!!」
「そ、そうなんだ・・・?・・・じゃ、じゃあな京一。気をつけて帰れよ」
「おうッ。またな、ひーちゃん!」



「―――――――――あ、危なかったぜ・・・」
 
 
 


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