第 弐 拾 弐 話 【 発 】 |
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迷いは、一瞬。 名を呼び、求めそうになる口元を強く引き結んだ。 背中越しに伝わる京一の温もりが、どれ程に心強いものであったのかを改めて知る。 不安がないと言えば嘘になる。だが、龍麻は己を信じ背中を押してくれた京一の心に──仲間達の信頼に応えなければならない。 二度と振り返らぬと誓った決意を胸に。今は、ただ前に進むべき刻──。 「いけるな、諸羽、弦月」 「は、はいッ!」 「まかしときッ!」 純粋な攻撃力だけなら京一に勝るとも劣らぬ二人だが、体力と経験に於いて些かの不安が残る。必然、龍麻が率先して雑魚に当たることになった。自分達もと得物を構える二人を制し、敵将にのみ集中するよう指示を与える。 螺旋の渦に敵を巻き込み、逆巻く怨念を掌打で叩き伏せ。切り開いた空間に二人を先行させた。 「いっくでェ」 青竜刀が先陣を切る。一寸遅れ、霧島の打ち下ろしがこれに続いた。 「愚かな。無限の刻の中を生きる俺を、たかがヒトが斃せると思うか?」 紅き髪の男が傲然と嗤う。車輪に回された得物が、二本の刃をあっさりと弾き飛ばした。 「ならば、ヒトでなければ?」 何時の間に切迫したのか、龍麻が男の胸に痛烈な一打を浴びせる。 「ウォッ・・・。クッ、貴様か、《黄龍の器》よ。だが、甘いな──剣掌・鬼勁ッ!!」 蹈鞴を踏んだ男の間髪を入れぬ反撃。細身の日本刀が、着地を決めたばかりの青年の頭上を襲った。 「龍麻先輩ッ!」 「アニキっ!!」 咄嗟に膝をつき、強引に円空破を繰り出す。青年を中心に拡がる《氣》の塊が、柳生の放った不可視の刃を退けた。 「なんちゅう化けモンや。アニキの技を至近距離から喰らってなんともないなんて・・・」 茫然と劉が呟く。霧島は顔色を失っていた。龍麻は眦を決すると、沈んだままであった姿勢から鋭い蹴りを放つ。柳生が避けるのは計算の内。勢いを利用して立ち上がり、素早く体勢を整えた。 「しっかりしろ。京一の弟子の名が泣くぞ、諸羽。弦月、何をしにここへ来たか忘れたのか?」 気持ちで負けてしまっては、勝てる戦も勝てなくなる。ましてや敵は柳生宗崇。この上なく強大な《力》を保有する相手なのだ。 仇を討つんだろう?との問い掛けに、劉がはっとなる。京一の名を出された少年が表情を引き締めた。青年は僅かに目容を緩めると、小さな笑みを二人に向ける。 「俺が隙を作る。二人は機を逃さず一点に集中して」 先程、攻撃してわかった。ただ技を当てただけでは、柳生の堅牢なる護りを打ち崩すことは出来ない。勝負は自分達の体力が尽きる前に、相手の不意を完全に突くことが出来るかどうかで決まる。 左右に散るよう手振りで示し、青年は己が《氣》を練った。両掌を手首から直角に立て上下に組み合わせる。獣の顎(あぎと)を思わせる構え。真正面に突き出す腕から、火焔の舌が伸びる。 「フッ、他愛もない」 戯れのごとく振るわれる刀。花と散る焔を隠れ蓑に放った龍星脚は、右腕一本で阻まれた。青年は上体を倒すと迫り来る剣尖を紙一重で潜り抜ける。そのまま肉薄を試みるも、柳生は必要以上の接近を許さず。大上段に構えた刀身を垂直に振り下ろした。空を切る白刃を龍麻は正面から受け止める。 「・・・・・・ぬッ?!」 甲高い金属音が鳴り、柳生の動きが止まった。刀を受ける寸前、拳に込めた凍気が、男の利き腕ごと得物を真っ白な霜で覆っていたのだ。青年は刃に触れた拳を基点に躰を反転させ、空いている方の腕で肘打ちを放った。中程から折れる刀。先祖伝来の得物を奪われた男の目が、無意識にその軌跡を追う。 「ぼやっとしてんなっ!いくぞ、諸羽、劉ッ!!」 青年が口を開くより早く。背後で相棒の声が上がった。龍麻の胸に安堵が湧き上がる。霧島がびくりと姿勢を正した。 やっぱり、京一は凄い。たった一言で仲間の志気を鼓舞し、龍麻の憂慮を打ち消してくれる。安心感を、与えてくれる。 「いくぜ──真・阿修羅活殺陣ッ!!!」 混じり合い、膨れあがる三人の《氣》が天をも貫く柱となり、深き闇を切り裂いた。 |
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《 緋勇龍麻君と豪華ゲストによる希望的次回予告 》 |
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【今回のゲスト:芙蓉】
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