番 外 編 【 浮 橋 】
 
 
 


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 久しぶりに部活にでた京一につき合って、すっかり日の落ちた帰路を二人で辿った。
 途中、慎ましやかに窓から顔をのぞかせた笹の葉に、本日が何の日であったかを思い出す。
「今日、七夕だったんだな・・・・・・」
「ん?ああ、そういやそうだなァ」
 京一も言われて始めて気づいたようだった。
「短冊に願い事って年でもねェからよ。いまいち印象が薄いんだよなァ」
 学校も休みになんねェしな。と、カラカラと笑う相棒にしばし呆れ。しかし、すぐに青年の言うとおりなのかもしれないと思い直した。実際、龍麻とて飾られた笹の葉を見るまでは綺麗に忘れていたのだから。
 空に目を転じれば生憎の曇り空。下手をすれば夜半過ぎからは雨模様となるだろう。
「年に1度しか会えない恋人・・・・・・それも晴れた日にしか会えないなんて、なんだか可哀想だよな」
 天の川に隔てられた二人は、今宵に限りカササギの橋を渡ってしばしの逢瀬を楽しむことができるのだという。だが、雨で川が増水するとカササギは橋を架けられなくなってしまうのだ。
「会いたくなったらいつだって会いに行けきゃいいんだよ」
 京一があっさりと言い放った。
「川ぐらい泳いで渡りゃいいだけの話だろ」
「・・・・・・泳いで渡れないほど深くて広い川なんだろ」
「だったら、筏作るとか浅いところを探すとかいろいろ方法があんだろうが」
 一年もありゃ手段なんていくらでも講じられるよな。
 そう言って不適に笑う顔は自信に満ちていて。京一に好きになってもらえる相手は、幸せだろうなとまだ見に相手に羨望を感じる。
「お前らしいよな」
「っんだよ、馬鹿にしてんのかよ」
「してないよ」
 拗ねているのか、照れているのか。憮然とする相棒に微笑みを返した。
「ひーちゃんでもさ・・・・・・」
「え?」
「もし、川の向こうにいるのがひーちゃんだとしても俺は絶対に会いに行くぜ」
 それは、背中を預ける親友に対する言葉。龍麻の望む形とは違うものだけれど。
「ありがとう京一。俺も向こう岸にいるのがお前だったらどんなことをしても会いに行くよ」
 応える言葉に気づかれぬようほんの少しの情を織り込んで、龍麻は再び空を見上げた。
 願わくば、すべての片恋に悩む人達に今宵、わずかばかりの幸が訪れんことを―――。
 
 
 


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