如月骨董店についた京一を待っていたものは、顔を真っ赤にして怒り狂う喧嘩友達の美少年と、何故か殺気を漂わせた仲間の面々だった。
「京一オメー、龍麻サンに迎えに行かせるなんて、何様のつもりだよ」
「本日の主役をパシリに使わせるなんてイイ度胸デース」
雨紋とアランの文句に続き、正義かぶれのレンジャー隊員達も口をそろえて不満をぶちまけてくる。
「おれっち師匠と正義について語るのを楽しみにしてたんだぜ」
「そうよね、あたしもたまには龍麻とゆっくり話をしてみたかったわ」
「こんな日までも、ひーちゃんをひとりじめするなんて許し難いな」
若干名、思考がズレいている奴がいるが、総じて皆、龍麻に相手をしてもらいたくてうずうずしていたということらしい。
学校が同じ京一達と違って、頻繁に会えない事情を鑑みれば当然かもしれない。
「あー、悪かったよ」
一応、殊勝に謝りつつ、噂の佳人を目で捜す。
龍麻はなにやら首に巻いたままのマフラーを両手で握りしめ、もっとも新しい仲間と談笑していた。
見慣れないマフラーは壬生からの貢ぎ物……もとい、誕生日プレゼントだったようだ。
「ちっ、俺のいない間に、ちゃっかりと取り入りやがって……」
これだから目を離せないんだと、苦虫を噛みつぶす。冷刃のごとき響きが浴びせかけられたのはそのときだった。
「蓬莱寺ちょっといいかい?」
会場の提供者である店主が、口元だけはにこやかに語りかけてくる。
底冷えする光を宿す瞳に、京一は本能的に身をこわばらせた。
「あ、ああ……なんだよ、遅れたことは謝るって」
「そのことじゃない」
すぱっと切り口上に告げ、若旦那が木刀男の肩に手を回す。
「龍麻の首に付けられている痣についてなんだがね」
こっそりと囁かれた内容に、京一の顔から血の気が引いた。
(あ、ああ~やべェッ!!)
先ほどつい調子に乗って痕を残してしまったのだ。
「いや、その、あれは……」
「ここじゃ言い訳しにくいだろう。あちらで紅葉も待っているからそこでゆっくり話をしよう」
……では、先ほど龍麻が壬生の前でマフラーを解いて見せていたのは……。
桜ヶ丘病院の一室に横たわる自分の姿を想像してしまい、京一は身震いした。
慌てて目を転じれば、端麗な微笑みを浮かべた相棒が手を振っている。
(ひーちゃん……ひでェ……)
京一はこれから己が身に降りかかるであろう災厄を予想して、静かに涙した。