第拾弐話 前哨

 ソレを助けたのは、気まぐれだった。
 人ならざるモノ達が蠢く異空回廊のひとつで、闇と戯れていた迷い子。
 放っておけば妖達に喰われてしまっただろうソレの手を引き。
 光射す現世(うつしよ)へと連れ出してやった。
 子供は礼ひとつ言わなかった。
 その瞳に生気はなく。
 その表情からは一切の感情が抜け落ちていた。

 子供がその後どうなったのかは知らない――。



「マリア先生――ッ!!」
 滅多に感情の乱れを表に出すことのない龍麻が、声の限りに叫んでいる。
 真神学園屋上。
 手すりを乗り越え虚空に身を投じようとした担任教師の手を掴み、教え子は強く握り締めた。
 東京は昼過ぎより幾度とない地震にさらされ、いつまた揺れがぶり返すとも限らない。
 上半身を乗り出した不安定な体勢では、諸共に落ちてしまいかねなかった。
(さて、どうしたもんかな)
 戸口に身を隠し、様子を見守っていた犬神は思案に耽る。
 龍麻を見殺しにするわけにはいかないが、マリアの決意に水を差すのは忍びなかった。
 彼女は滅びゆく一族が末裔。人に追われ、狩られながらも、人の世に寄生することでしか生き延びる術のなかった夜の眷属。
 《黄龍の器》の現出は、彼女にとって神の啓示にも等しかったのだろう。
 手に入れれば、不遇を侘しむ一族を救うどころか、かつての隆盛を取り戻すことさえ夢ではない。《龍脈》の恩恵に浴することができるのは人間だけとは限らないのだ。手を伸ばせば届くものを欲して、なにが悪いというのか?
 犬神は彼女を愚かしいとは思いつつも止めることはできなかった。犬神とマリアは同じ穴の貉だ。大切なものを喪った過去にいつまでも捕らわれ続けている。
 諦め膿むことしかできない犬神と違い、足掻く余力が残っている分だけマリアのほうがマシだといえないこともなかった。

 彼女が龍麻に惹かれたのは、どんな運命の皮肉だったのか。

  

 東洋では神と呼ばれる龍は、西洋においては悪の化身とされている。マリアにとって龍はまさしく破滅をもたらす災厄となった。
「龍麻、貴方を―――していたわ」
 小さな、それこそ小さな余韻を残し、救いの手を振り解く。
 無謀だとわかっていた。勝てないと知っていた。……それでも挑まずにはいられなかった。
 結果が予想を覆すことはなかったが、マリアは満足している。
 少なくとも、龍麻の心に己の存在を深く刻み付けることができたのだから……。
「……っ!マリア先生っ!!」
 追い縋り手すりに片膝を乗り出した龍麻を、犬神は後ろから支えた。
「無茶するな。お前まで落ちてどうする」
 腰に巻きつけた右腕に力を込めて引き下ろす。床についた足から振動が伝わった。
 鉄筋が軋み悲鳴を上げる。犬神は眉を潜めた。
「マズイな。地震の影響で校舎の壁に亀裂が入っている。下手をすると崩れるかもしれん。急いでここを離れるぞ緋勇」
 龍麻は離れがたいのか、マリアの堕ちていった闇に目を向けている。
「彼女のことは俺に任せておけ。心配はいらん。俺達はお前ら人間よりも丈夫に出来ているからな」
 龍麻は神妙に頭を下げた。犬神達が人と種族を異にする生き物であることなど、とっくに気づいていたのだろう。隠す気もなかった犬神は、気配を押し殺すことさえしていなかったのだから。
「犬神先生に助けてもらったのは、これで3度目ですね」
 停電のため闇に覆われた校舎の階段を駆け降りながら、龍麻は前を行く生物教師に話し掛けた。
「3度?」
「俺達が旧校舎で倒れたとき、助けてくださったのは犬神先生でしょう」
 何者かの『声』に促され、内なる《力》を解放したあの日。意識を失っていた自分達を校庭まで運んでくれたのが、ここにいる教師であることを龍麻は承知していた。
「……気絶は演技だったというわけか」
「すいません。京一達に不信感を抱かれたくなかったものですから」
 こいつも苦労しているということか。犬神は微苦笑した。
「恩着せついでに聞いておく。お前はどの程度知っていたんだ?」
 東京で起きている怪異について。《道》を踏み外した男が抱く妄執について。
―――そして、龍麻自身のことについて。
「俺がここへ来た時点でのことを訊かれているなら」
 ほぼ全てを、と龍麻は答えた。
「真神へ来たのは、鳴瀧氏の薦めによるものですけどね」
 犬神は思わず振り返る。
「そうか、お前をここへ呼んだのは拳武館の館長か……」
 混乱を収束するには、龍麻の存在が必要不可欠であった。何も知らなければ幸せに暮らしていける子供に、選び取らせなければならない過酷な《道》。親友の忘れ形見の平安と世界の命運を天秤に掛け、鳴瀧はあえて憎まれ役を買ってでたのだろう。
「鳴瀧氏に非はありませんよ。彼は『俺を』見いだしたと思っているみたいですけど、本当は『俺が』彼を待っていたんですから」
 龍麻がここへ転校してくる前に通っていた明日香学園は、神奈川県にある。その場所を選んだのは、東京から程近い場所であるという以上に、拳武館大学部の体育館から歩いて30分と離れていない距離にあるという意味合いが大きかった。龍麻は鳴瀧が己を見いだすのを待ち受けていたのだ。
「何もかもを知った上で、拳武館を利用したというのか?」
「東京がどのような危機を迎えるのかは解っていても、それが如何なる形で起きるのかまでは察知できませんでした。《黄龍の器》である俺が、《龍脈》の活性化した土地にいきなり飛び込むことにも懸念があった。情報が不足していたんです」
 実際、拳武館は役に立ってくれた。龍麻に古武術の基礎を仕込み、足掛かりとすべき拠点を提示してくれた。真神学園の名を知ることが出来ただけでも、首尾としては上々だ。
 犬神は視線を前に戻すと、歩調をゆるめて残りの階段を降りた。

 老いも若きも。男も女も。人も妖も。
 誰も彼もが、たったひとりの青年に惹かれ翻弄されている。
 世界さえもが、彼の胸ひとつで明暗を分かってしまうのだ。

「お前はこの東京を、いやこの国の未来をどうするつもりなんだ?」
「宿星の望むままに」
 柳生は斃れ、この街は救われるだろう。
「お前が世のため人のために尽くす性質とも思えないが」
 龍麻はそれに答えず、話題を変える。
「犬神先生は《陰の器》がどうやって創られるかご存知ですか?」
「ああ。生まれたての赤子に呪術的措置を施し、《龍脈》の媒体とする……旧帝国日本軍が編み出した秘法だ」
 犬神は僅かに目を細めたが、あえて問いを跳ね返したりはしなかった。
「ご覧になったことは?」
「いや、ない。俺はそれには係わっていないからな。実験は繰り返し行われたが、成功例は柳生の擁する一体だけだったと聞いている」
 昇降口を非常灯がぼんやりと照らし出している。緑色の光は心許ないものだったが、夜目の利く犬神には問題とならなかった。龍麻もまた、危なげのない足取りで犬神に並ぶ。
「『柳生』が旧帝国日本軍で秘中の秘とされた呪法、それも一度も成功したことのないものを、どうやって知り得、かつ成功させることが出来たと思いますか?」
 校舎を出たとたん、突き刺さるような凍気が吹き付けてきた。空は血を啜ったかのような厚い雲で覆われている。
「お前はその理由を知っているというのか?」
 校庭を横切り銀杏の根元まで歩いた。龍麻の気持ちを推し量り、わざとマリアが落ちたとおぼしき場所から離れたところを選ぶ。
「実態の掴めない、しかも不確実な実験になど宗崇は興味を示さなかった。彼が選んだのは、もっと確実な方法です。《陰の器》とは俺の模造品。俺の《陰の氣》を宿した人形に過ぎない」
 一般的に考えられている《陰の器》と、柳生の有する《陰の器》ではその意味するところに大きな隔たりがある。
 新たな《黄龍の器》を無から創り出すためには、被験者の《氣》を龍脈に合わせて変質させなければならない。だが、柳生は《器》に成り得る素養を持つ赤子を攫ってくると、《氣》を全て抜き取るという手段に出た。空(うつほ)となった躰に龍麻から剥離した《陰の氣》だけを流し込むことによって新たな《器》としたのだ。
 移し替えたのが《陰の氣》のみだったのは、龍麻と攫ってきた赤子の《器》としての容量に違いがあったため。素養があっても、生来の《黄龍の器》ではなかった赤子は、龍麻──本来の《黄龍の器》──の《陰の氣》を受け止めるだけで精一杯だったのだ。

「柳生はお前を手に入れていたというのか?」
 煙草を取り出した犬神のライターを探す手が止まった。
 龍麻は生物教師の唇の動きに会わせて揺れる煙草を指で挟み上げる。
「緋勇弦麻が封じたのは宗崇の肉体のみ。精神は日本に帰り着き、魍魎達を手足として着々と計画を進めていました」
 龍麻が預けられたのは、緋勇の親戚筋とはいえ何の《力》もない一般の家庭に過ぎなかった。それは、弦麻の子に普通の生活をと望んだ白蛾翁の気遣いであったのだが。年若い夫婦は凶星の者率いる妖達に対抗する術さえ持たず。預けられてより3日と立たないうちに、龍麻は天涯孤独の身の上となった。
 それから約8年。龍麻はもうひとつの《器》と共に宗崇の結界に封じられて過ごした。
 此度の騒動の元凶を間近に見続けてきたのだから、龍麻が事情を知るのは当然のことである。

 白蛾翁の元を訪れたのは、かつて柳生と対峙した弦麻の仲間達がどの程度の事情を把握しているのか、知っておいたほうが良いだろうと判断してのことだった。結局、彼等の認識は真実からは程遠い場所にあったのだが。仲間の宿星達を納得させる上では大層都合が宜しかった。《陰の器》の本質が龍麻と同じであることを知れば、京一達はきっと剣を向けることに躊躇を覚えるだろうから。

 予想を遙かに超えた内容に、犬神は開いた口が塞がらなかった。
「……お前にはちゃんと《陰の氣》が備わっているようだが」
 かろうじてそれだけを口にする。
 奪われたのであれば、龍麻の中には《陽の氣》しか残っていないはずだ。取り戻したというのなら、《陰の器》が存在するはずもない。
「これは別口です。俺本来の《陰の氣》は今も宗崇のもとにある」
「別口だと?!」
 犬神は目を剥いた。
(緋勇という莫大な《器》を満たすだけの《陰の氣》など、どこにあるというんだ?)
 それも犬神やマリア達、魔の眷属を惹きつけるほどの――まるで、《闇》そのものであるかのような《氣》を。
(まてよ)
 《闇》という言葉に引きずられ、ひとつの可能性が浮かぶ。
 もし、龍麻の裡に宿るモノが《陰》ではなく、《闇》なのだとしたら。

 かつて、神世の時代に《黄龍》と互角以上の戦いをした強大な《闇》があった――。

(ふっ。まさかな)
 いくら龍麻が稀なる《器》とはいえ、相反する性質のものを受け入れて無事で済むはずがない。犬神は頭を振って、愚かしいその想像を振り払った。
「宗崇の元を離れてから色々とあったので。結界の中にいた8年間は、俺も《片割れ》と同じ状態でした」
 森羅万象は陰と陽から成り立っている。どちらが欠けても成立し得ず、均衡を崩した精神は蝕まれ健常とは程遠いものとなる。龍麻と件の片割れは生ける屍となっていたのだろう。いや、《陰の器》に限っていえば現在も、その状態は続いているはずである。
 柳生にはむしろ好都合だったといえる。《黄龍の器》は、龍脈の力を汲み取るための井戸であれば良いのだ。《器》の自我や意識など、残っていても邪魔にしかならないのだから。
 取り上げられた煙草が龍麻の白い指先に弄ばれるのを見つめながら、犬神はとある光景を思い出していた。

 異空回廊の片隅で、虚無を抱えていた子供――。
 泣きも怯えもせず、言葉さえ持たなかった空疎な瞳。
 あの幼子は、持つべき《氣》を奪われていたからこそ、正体を無くしていたのではなかっただろうか。

「貴方と初めて会ったとき、俺は宗崇の結界から出たばかりだった」
 助けてもらった3度のうちの、最初のひとつ。
 追憶に被さり、龍麻の告白が重ねられる。
「あれは、やはりお前だったのか……」
 もしやと考えたことがなかったわけではないが、あまりにも雰囲気が懸け離れていたために確信を持てなかったのだ。
「意識は定まらなくても、記憶回路は正常に働いていたみたいなので。犬神先生の姿は、網膜にしっかり焼き付いてたんですよ」
 どこまでも続く無色の檻の中、紅く点灯した煙草の火。ふわりと鼻孔をくすぐる煙の香り。
 鎖を解き放たれた龍麻が、初めて目にしたもの。《陰の器》以外で初めて目にした生身の肉体を持つ人物。それが犬神だった。
 犬神はもう一本煙草を取り出すと、ライターで火をつけた。
 考えをまとめるために大きく吸い込み、細く長い息を吐き出す。
「一体何があった?『あの状態』のお前が、自分から結界を出るとも思えんが」
 よしんば正気であったとしても、柳生宗崇が幼児の抜け出せるような結界を敷くはずもない。龍麻が封印を解いたというのなら、そこには柳生の意志が働いていたということになる。
 龍麻は指に持っていた煙草を口元へ運ぶと、犬神に歩み寄った。
 相手の咥えている煙草から直接火を受け取る。
「宗崇は、このままではおもしろくないから、と」
 どちらのものともつかない紫煙がのぼり、視界がけぶった。
「でも俺は、もっと別の理由があったと思います」
 気の向くままに姿を現しては、言葉を投げ掛けていった男。心を見失っていた自分と『彼』がそれに答えることはなかったけれども。龍麻は長きに渡り、男をつぶさに観察し続けてきたのだ。
「《黄龍》を渡すわけにはいかない。でも、もうひとつの望みなら、俺にも叶えてあげることができる」
 もっとも深く、昏き涯(はて)に潜んだ望みのほうならば。
 龍麻の声音からはむしろ親しみさえ感じられ、犬神は意外に思った。
「緋勇……お前は柳生を恨んではいないのか?」
 両親を殺し、龍麻を結界に閉じこめて正常な意識を奪った男。《黄龍の器》たる宿星は変わらずとも、柳生宗崇さえいなければ、もっと平穏な人生を過ごすことができたであろうに。
「宗崇は俺に『奇跡』を見せてくれた最初の人だから」
 天より与えられし定めも地の理をも凌駕する、強い想い。それが、柳生を彼の願いからさらに遠い場所へ導くものであったとしても。
 彼の強い志(こころざし)が、龍麻の中に鮮やかな色を映してくれているから。
「俺は自分の気持ちを動かしてくれる者に弱いんです。そういった意味では、宗崇以上に俺に影響を与えた人間はいないでしょう。俺は、彼には出来る限りのことをしてあげたい。それも戦う理由のひとつですよ」
「蓬莱寺あたりが聞いたら、暴れ出しそうだな」
 よく言えば明朗闊達、悪く言えば単純明快な青年は、嫉妬で怒り狂うだろう。
「だから、京一には内緒ってことで」
 あはは、と龍麻が軽く笑う。犬神は短くなった煙草を投げ捨てた。
 火種をもみ消した足を踏み出すと、先程、龍麻がしたように咥えていた煙草を奪い取る。
 上がる視線を掌で覆い隠し、龍麻の口内に残った煙草の残り香を丁寧に味わった。
 掌をどかせば、異空回廊よりも奥深い瞳が、不思議そうに犬神を見上げている。
「犬神先生?」
「口止め料だ」
「……天野さんと同じようなことしますね」
「天野?あのルポライターがどうかしたのか?」
 勝気な雑誌記者の顔が浮かぶ。
「今日は一日家で大人しくしてくれるように頼んだんですよ。九角のときみたいに、物陰から覗かれてると困るので」
 天野は驚いたことに、九角戦の様子を逐一観察していたのだ。雑誌に記事が載ったときは、さしもの龍麻も唖然とした。だが、今度の戦いは、危険度が九角の時とは比べ物にならないほど高い。知られてはまずいこともある。
 クリスマスイブに呼び出して試みた説得を、天野は渋々ながらキスひとつで承諾してくれた。
 お詫び――というよりは取材目的だろう――に、後日デートすることをしっかり約束させられてしまったが、この程度は許容すべき範囲である。
「彼女も馬鹿じゃない。自分の不注意な行動がお前達に危機を招くのを恐れたんだろう」
 ぐらりっと眩暈に似た感覚が地面から迫り上がる。地震の間隔が短くなってきていた。
 低い地鳴りにあたりを見回すと、不気味な双頭の塔が地面からゆっくりと姿を現してきている。
 陰影だけを見れば新都庁によく似たそれは、細い両の尖塔の間に、紅く濁ったプラズマを走らせていた。
「見えるかあの塔が。あれは龍脈の《力》を、《黄龍》へ注ぎ込む呪具だ。あれが全て姿を現したとき、乱れた土地の磁場は崩壊する」
 東京の街は、終演を迎えるのだ。
 龍麻がうっすらと笑みを佩いた。瞳が黄金の輝きを灯す。
「そろそろ行きます。京一達が待ってますから……マリア先生のことお願いします」
「ああ。……緋勇」
 踵を返しかける青年を呼び止める。
「教師の前で堂々と煙草を吸うな。次は許さんぞ」
 励ましや心配の言葉は不要だろう。彼はきっと己の望みを果たすのだから。
「気をつけます」
 龍麻が顔容を緩めた。

 時間からすれば、煙草一本ほどの短い間だったが、随分といろいろなことを話した気がする。

 長すぎる生を憂い、色褪せた記憶にしがみついて。
 いっそ、人の世に嫌悪さえ覚えていたのだ。
 龍麻は、渇ききった犬神の心に冷涼とした清水を分け与えてくれた。
 罅割れ、風化していくに任せていた表層にささやかな潤いをもたらしてくれた。
 懐かしい感情を思い出させてくれた青年のために、できる限りのことをしよう。

 かつて犬神は、とある女性にこの地の守護を誓った。
 友情と呼ぶにはあまりにも哀しく、恋情と称すにはあまりにも淡い時が過ぎ。
 残された誓いの言葉は惰性となって犬神を縛り付けた。連綿と続く生を、ただそれだけのために費やしてきたのだ。
 けれど今この時だけは。
 彼のために、彼等が帰るべきこの学び舎を護りたかった。教え子を見守る教師として。迷い子を拾った保護者として。
 龍麻に好意を寄せた、ひとりの人として――。

(とりあえずは、あの英語教師を拾いに行かないとならんか)
 かの青年の苦しみをこれ以上増やさないためにも。

 犬神は二本目の煙草に火をつけると、足早に校舎へと戻っていった。
 龍麻が成人したら、互いに煙草を吹かしながら、じっくり話をするのも悪くないと考えながら。

2001/07/15 UP
犬神先生編。やっと出せました。長かったなあ(しみじみ)。
今回で、謎の3分の2ぐらいは解けたと思います。でもやっぱりわかりずらい。説明下手なんですよね。
いえ、複雑な設定作った自分が悪いんですが。後悔しても修正きかないので、このまま突っ走らせて頂きます(笑)
そして天野さん。龍麻はクリスマスにこんな事を話していたんですね。無粋過ぎです。そりゃ不機嫌にもなるでしょう。

【次号予告(偽)】

妖都・東京にいま恐怖の大王が降臨する。
美里:「うふふっ」
紗夜:「えへへっ」
美里:「そう、比良坂さんも一緒に決戦に望むつもりなのね」
紗夜:「ええ、龍麻が!(強調)いいよって言ってくれましたから」
美里:「そうなの、がんばってね。うふふ」
紗夜:「もちろんです。わたしはきっと龍麻の役に立てますから」
弦月:「なんや、えらいおっかない気がするのは、わいだけか?」
京一:「おい。誰かあの二人を止めてくれ……」
如月:「悪いが、僕はこんな下らないことで命を落としたくはないよ」
壬生:「やりたければ君がどうぞ。蓬莱寺」
京一:「できるかッ。おい、ひーちゃんどうするんだよ」
龍麻:「このまま、宗崇の元につれていくに決まってるだろ」
村雨:「ああ、なるほどな。あの二人のパワーなら柳生なんてひとひねりだな」
京一:「さすが、ひーちゃん。考えてるんだな」
龍麻:「問題は、周囲に及ぶ被害がどれだけ大きくなるかだけど……いや、考えないことにしよう」
その日を境に、東京は倭の国から姿を消した。
目撃者の証言によれば、問題の夜、天使が空を舞い、妖しいまでに美しい歌声が高く響き渡っていたのだとか。柳生宗崇と彼の野望を阻止するために闘い抜いていた高校生達がどうなったのか、知るものは誰もいない。
龍麻:「うーん、やっぱりこうなったか。みんな生きてるかな……(紗夜と美里は無傷だったけど)」